毎度、気になっていたのですが「Akusticus」のテールピースのテールガットは細い針金のようなスチールワイヤー(以後「テールワイヤー」と呼ぶ)です。
このテールワイヤーって長さの調整が出来ないし、黒檀のサドルを傷つけるよなぁと気にしている。

この細いテールワイヤーって何故ゆえ採用されたのだろうか。

メーカーはドイツのWeidler社ですが当時の開発者に聞いてみたいところ。
もう数十年は作り続けられている商品で、年代によって重量は変わるものものの、天然の木材に比べ品質が安定しているためからか、初級楽器から高級チェロにまで広く採用されていますね。
国内でも1万円以内で購入でき商流も安定してコスパ最強テールピースです。
広く使われる理由
- 品質が安定している
- 軽量で音質を損ねない
- 丈夫で衝撃に強く破損しにくい
- アジャスターが壊れにくく調弦しやすく優秀である
- 見た目も悪くない
- 供給が安定しており比較的(木製のブランド品に比べて)安価である
こんなところでしょうか。
いやはや商品として強い。普及して間違いない。
テールワイヤーは標準一択?
Akusticusに標準装備のテールワイヤーね。

このハリガネのようテールワイヤーの良し悪しを調べたいところ。
他のテールガットを使う理由がないほど、商品として安定しているため、通常利用では特にテールワイヤーを交換する理由が無いわけですね。
スチールワイヤーの取り外しも容易ではない。

このネジネジとねじられている部分をペンチでほどいて取り外せる。
いやはや結構大変。丈夫なワイヤーだ。めちゃくちゃ固い。
強靭なテールワイヤーは絶対に切れることはないであろう。コンサート中にテールワイヤーが切れるなんて事故は無さそうです。
テールワイヤーが通る穴を拡張する
Akusticusのテールピースのテールワイヤーが通る穴は細い。
既存のテールワイヤーが通る穴は2mm弱の穴です。

なにせ極細のワイヤーが通れば良いだけなので穴を広く開ける必要はないし強度もそれだけ増す。
他のテールガットを取り付ける想定をしていない造りになってます。
この小さい穴だと針金は通せるが、ケブラー製のテールコードや、ましてナイロン製のテールガットや本物の腸のテールガットを通すことはできなさそう。
テールワイヤーの穴を広げる
アフターレングスの長さを変えるにはテールガットの長さで調整します。
テールガットを長くしてあげることでアフターレングスは縮まります。
今回はケブラー製のテールコードを使いたいのでテールピースの穴を拡張しないとなりませんでした。
既存のテールワイヤーを取り外して穴を拡張していきます。

ドリルはアマゾンなどで購入できるもので充分だと思います。
既存の穴は直径2mm弱位の穴が開いており、これを2.3mmくらいまで広げるとケブラー製のテールコードが通りそうです。
少しずつ広げてみます。

マイクロなプラスチックが飛ばないように気をつけましょう。
拡張が完了しました。

つまようじが通るくらいに広げました。直径2.3mm程かなと。
これで無事にテールコードが通るはず。
ケブラー製のテールコードを装着
無事にテールコードが通りました。
ボワ・ダルモニ製のケブラー製のテールコードです。

テールコードの長さを調整しながら結びます。

フィッシャーマン・ノットという結び方です。

駒とテールピースの距離
駒とテールピースの距離(以後「アフターレングス」)が世の中的な標準てあるナットから駒までの長さ(以後「弦長」)の6分の1よりもだいぶ長いことである。

アフターレングスが14.3cm程の長さである。
弦長を測ってみると685mmでした。
現在のセッティングのアフターレングスは弦長の1/4.8程となっていますね。
この比率のことを以後「アフターレングス比」と呼ぶことにする。
現代のチェロはアフターレングス比は5分1から6分の1の長さのアフターレングスにセットする事が多いのだそう。
なので現在のセッティングだと標準ではあるものの少しだけ長めなのかな。
インスタグラムでアフターレングスを突き詰めると綺麗な音色になる的な投稿を見つけた。
そんな情報もあり、アフターレングス比1/6分の114mmにしてみようと思うのです。
チェロに装着する

このチェロは弦長は685mmなので世界標準と言われている114mm強のアフターレングスを目指してとりあえず11.5cmくらいしておく。
経験上、弦の張力により少しずつテールコードの結び目がきつく締められていってテールコードの長さは1mmほど伸びる、つまりアフターレングスは短くなっていくことを想定しています。
結果
結論から言うと「改悪」でした。ガーン。
音の出る感じというよりかは弓の重さが弦に伝わりにくくて振動させづらいというか感覚的な問題かもしれません。
明らかに以前のセッティングよりも弾きにくいなと感じました。
聴き手が分かる程度なのかは不明で自己満足の世界かもしれませんが、弾いていて楽しさが減ってしまった感じです。
大げさな話ですが、私が弾きにくくチェロを奏でる人生の豊かさを感じにくいのであれば、聴衆にもその音が届いてしまうはずです。
このアフターレングスのセッティングの変更は私のチェロにとっては改悪だったかもしれません。
さすがライナー・レオンハルト工房
そもそも、このチェロはドイツのライナー・レオンハルト(Rainer Leonhardt)という超絶名門工房でセッティングされたものなので、素人が下手にいじらないほうが良いはずです。
恐らくは工房にとっては大切な最終セッティングを、素人が興味本位で変更したりするなんて命取りになりますね。
近所のプロの職人さん(リュータイオ)さんに指南いただきました。
アフターレングスの長さ楽器により違ってきますよ。
チェロやヴァイオリンやヴィオラによっても、ボディ形状によっても、表板や裏板の木材の厚みや材質(硬さ)によっても、楽器全体のバランスによっても異なります。
更に、ベストな弾き心地というものは演奏レベルや奏者によって異なると思います。
持ち主の要望と楽器のキャラクターごとに、「じゃあアフターレングスの長さを調整してみようかな?魂柱の位置を変えようかな?テールピースを変えてみようかな?アジャスターの重さを変えてみようかな?」とか、たくさん検討できることはあります。
表板にヒビが入っていたり側板が剥がれていたりとか分かりやすい修理ではなく、音質を「調整」するレベルになってくると考察するところはたくさんありますよね。
と優しく教えてくれました・・素人が下手に足を踏み入れて痛い目を見るやつです。なんかごめんなさい。
他にも大ヒントをいただきました。
経験的にテールコードが長すぎるとあまり良くない方向にむかいます。
アフターレングスの長さを気にするよりも、まずはサドルからテールピースまでの長さを2cm以内にすることを気にしてみてください。

なんということか、今のセッティングではかなりテールコードを長めにしてしまっている。
ケブラー製のテールコードのままアフターレングスを元の長さに戻してみる
ということで、ケブラー製のテールコードのままアフターレングスの長さを元のAkusticusの既存テールワイヤーの14cm強に戻していきます。ごめんなさい ライナー・レオンハルト様。
その結果、以前と近しい弾き心地に戻ってくれました。助かった・・・。
ただ、音色は若干ザラッとした感じが加わったかもしれません。まぁ数日後には落ち着いてくるとは思います。
黒檀のテールピースにしてみる
この無謀さは私のチェロ愛、探求心からくるものです。良くも悪くも。
あれだけライナー・レオンハルト工房様のセッティングを尊重したのも束の間、やっぱり黒檀のテールピースの方が見た目が良いので交換したいのである。
ライナー・レオンハルト工房の調整を踏襲しつつ黒檀のテールピースに変更してみようと思う。

だいぶテールコードが長いのが分かる。職人さんに言われた通り黒檀のテールピースのテールコードを短くしてみよう。
更に言うと、テールピース自体が大きいのでテールコードの長さは極力短くしなければアフターレングス長をかせぐことが出来ない。

サドルからテールピースの長さを測るのは難しいけど、まぁ2cm以内にはなったかな。もう少し縮めてもいいかも。
やはりAkusticusの既存のテールワイヤーの長さは理にかなっているのだろう。元々ライナー・レオンハルトに付いていたAkusticusのテールワイヤーと同じような長さになりました。
気になるアフターレングスはというと・・

アジャスターとの接点まで127mmくらいかな。
つまりアフターレングスは、弦長の1/5.4くらいの長さになりますね。
Akusticusはテールピース本体自体が小さいのでアフターレングスを長めに取れるのだが、この黒檀製のテールピースはそれ自体が長いのでアフターレングスが短くなってしまう。数日経つともう少し短くなりそう。
肝心の音質と弾き心地
Akusticusの元の弾き心地とは少し異なりますが、114mmの時に比べては弾き易いですね。
まとめると
- Akusticusオリジナル
- Akusticusテールピース
- Akusticusテールワイヤー
- アフターレングス比1/4.8程
- 音質
- クリアで艶っとした感じ
- ボワンと音量が出る感じ
- 施策 1
- Akusticusテールピース
- ケブラー製テールコード
- アフターレングス比1/6
- 音質
- ボリュームが減って音を出すのが難しい感じ
- 音量は減ったけどレスポンスはしっかりある感じ
- ちょつとザラついた音質に聴こえる
- 施策 2
- Akusticusオリジナルテールピース
- ケブラー製テールコード
- アフターレングス比1/4.8
- 音質
- 弾き心地はオリジナルとほとんど変わらない
- 空気を含んで低音が軽くなった感じ
- 施策 3
- 黒檀製テールピース
- ケブラー製テールコード
- アフターレングス比1/6
- 音質
- 音量は出にくい感じ
- レスポンスはダイレクト
- 駒の近くで音量を出す弾き方をするとキリッとした音
- ザラッとした音質
- 施策 4
- 黒檀製テールピース
- ケブラー製テールコード
- アフターレングス比1/5.4
- 音質
- 対策3よりは音量がより出やすい気がします
- サラッと空気が含まれてる音質
- 高音はキラキラしているかも
ひとまず、最後の施策4の状態でライナー・レオンハルトはしばらく様子を見ていきます。1ヶ月くらい馴染ませると化けてくる気がします。
1990年のチェロもセッティングを見直し
1990年のドイツ量産系チェロもアフターレングスを見直します。

そう。1/6にしてました。
その代償としてのサドルとテールピース間の長さです。

4.5cm程はあるでしょう。たまにこの位のセッティングのプロの人も見ますけどね。私の先生の素敵な楽器もこの位の長さです。先生は凄まじく綺麗で大きな音で鳴らしていらっしゃる。
しかし私にはその腕が無い。まずは自分の弾き易いですセッティングにして納得したい。

133mm程でしょうか。アフターレングス比は1/5.8くらいです。
こちらのチェロも劇的に弾きやすくなりました。
アフターレングス長や、サドルとテールピース間の長さの違いで弾き易さがこれほど変わるとは思いませんでした。
上手な人はどんな楽器でもその楽器にとってベストな鳴らしかたで弾けちゃうんですけどね。
めでたしめでたし。
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